脂肪浮腫

肥満に関係するむくみ

むくみと体重はとても強く関係しており、単純に太るとむくみます。これはまず間違いありません。ですが、「肥満性浮腫」という病名はなく、通常「脂肪浮腫」と呼ばれます。脂肪浮腫は典型的には左右対称的な「乗馬ズボン」体型の特徴的な浮腫です。皮下脂肪組織の病的な増殖による疾患として海外の書物では記載があります。臀部付近から始まり足首まで及び、皮膚の性状も徐々に凸凹になってきたものをセルライトと言うこともあります。高度の場合は上肢に及ぶこともあります。ほとんどが女性で、思春期頃以降から発症し、妊娠、更年期などに増悪しやすく、夕方や暖かい日には圧窩性浮腫(指で押すと凹みができるむくみ)となりやすくなります。

日本人では、あまり高度でない方は結構多くみられます。ベースには起立性浮腫や、肥満による様々な健康障害があり、これらがむくみの大きな原因となる静脈還流にも影響している可能性があります。

肥満の方はあまり歩かない方が多いのですが、太ったから歩かないのか、歩かないから太ったのかは、何とも分かりません。結果的に下腿の静脈ポンプとしての作用が低下し、下肢から心臓方向へ静脈血を押し上げる力が低下します。仕事などの環境の変化や運動を止めたことがきっかけになることも多いです。脂肪による物理的な静脈還流の障害もあると思われます。また、肥満症においては何らかの心臓への負担による静脈還流の障害も可能性があります。

このようにさまざまな悪影響が考えられますが、そのほかに皮下リンパ流の障害も大きく関係していると思われます。

下肢のむくみの液は皮下組織内のリンパ管によっては排出されていきます。ある程度むくみが貯留する(浮腫)と皮下組織内圧が上昇し、それが毛細リンパ管に流れ込む力となります。一方、毛細リンパ管に入ったリンパ液は集合リンパ管を経て鼠径リンパ節に流れ込み、腹部のリンパ管から胸管を経て頚部で静脈に合流します。

皮下のむくみの液が皮下組織内(脈管外通路系と言います)を流れて毛細リンパ管へと向かう時、いわゆる「皮下脂肪」が存在すると、脂肪が邪魔で皮下組織内をスムーズに流れて移動することができず、さらには脂肪自体が毛細リンパ管、集合リンパ管を圧迫する事でリンパ液の流れが悪くなります。すなわち、皮下脂肪自体がリンパの流れを障害することで、むくみの液が溜まってしまう事になります。脂肪組織による微小血管障害も見られ、蛋白漏出が増加することも影響します。したがって、太ること自体がむくみを発症させることになり、これを「脂肪浮腫」と言います。さらに進行するとリンパ管自体が変性して障害されるので「脂肪リンパ浮腫Lipo-lymphedema」と呼ばれます。病因として、ホルモンや遺伝性の影響も疑われていますが、このような機序を考えると少なくとも“一次性リンパ浮腫”とは言えません。 

脂肪細胞には知覚神経も分布していますので時に圧痛もあります。微小血管障害症microangiopathyもありますので、血管外への蛋白の漏出-貯留や、血管が脆くなり出血して皮下内出血の原因ともなります。痛みはさらに神経性の炎症を来し、微小血管障害症を増悪させます。毛細リンパ管には形態的および機能的にも変化が起きてきてリンパ生成およびリンフアンジオンlymphangion(リンパ分節、リンパ管弁間部リンパ管の弁と弁の間)の動きにも影響します。

皮膚の弾性も失われてくるため、結果的に静脈ポンプ機能の低下や静脈壁自体の神経反射も消失します。ポンプ機能の低下のために静脈圧自体が上昇するので、高い静脈圧に打ち勝ってむくみの液が静脈に戻っていくには、皮下組織内(血管外)に、より多くのむくみが溜まらなくてはならなくなります。そのため、ますますリンパ管には負担が増える事になります。脂肪組織内ではほとんどマクロファージは存在しないので、貯留した蛋白は減らず、繊維化が起こりコラーゲン繊維ができてきます。

                 
図:左上:正常な脂肪組織、右上:少しむくみが溜まっている状態、左下:白血球(マクロファージ)が出現している状態、右下:微小血管障害が起き線維化を来たしている状態Földi’s Textbook of Lymphology 2nded. 2006,P426

 

 重症度を4段階に分けます。Stage1:軽度で皮膚の変化がまだ少ない時期、Stage2:皮膚に凹凸の変化が見られて“オレンジピール”と呼ばれ、夕方には圧窩性浮腫が見られる時期、Stage3:体重増加も顕著で明らかな下肢の変形、皮膚色の変化を伴い日常生活にも不便が感じられる時期、Stage4:全身に及んでリンパ浮腫を伴う時期。

 タイプ分類もなされています。TypeⅠ:臀部、TypeⅡ:臀部から膝、TypeⅢ:臀部から足首、TypeⅣ:脚だけでなく腕も、TypeⅤ:脂肪リンパ浮腫(Lipo-lymphedema)。したがって、脚のみ全体に軽度の浮腫がある場合、“StageTypeⅢの脂肪浮腫”のように表現します。なお、“セルライト”はオレンジピール様の皮膚変化を指しますが、いわゆる医学用語ではありません。多くの場合、リンパのうっ滞と結合織の浮腫性変化、皮下脂肪組織の増殖などを認めます(P425)。
 

いったんこのような状況になりますと、減量を試みても効果が見られないことが多くなりますので、早めに診断し、リンパ管に不可逆的な変性ができてこないうちに減量するのが好ましいと思われます。このような肥満に基づく浮腫を“リンパ浮腫”と診断してしまい、いわゆるリンパ浮腫の治療をするケースが多く見受けられますが、ベースに肥満がある浮腫には効果は出にくいのが実際のところですので、とにかく早めに対応する事が大切です。
 弾性ストッキングによる圧迫は、むくみではなく脂肪を圧迫する形となりますので効果が上がりにくい傾向にあります。言い換えると、太めに見えるのはむくみ(水分)ではなくて脂肪が主体とも言えますので、まともに圧迫すると圧迫感が強くて窮屈に感じられますので、弾性ストッキングは、少し大きめで、かつ弱めにする必要があります。また当然の事ながら、リンパ浮腫が主体ではないので、リンパ管静脈吻合術はほとんど効果は望めません。
 

厳格な減量療法とリンパうっ滞除去療法(複合的理学療法CDT)の組み合わせがもっとも有効な治療法とされていますが残念ながら著効は得られません。特にStageⅠではCDTが有効です。この時期は弾性ストッキングは圧迫感が強いのであえて着用しませんが、StageⅡでは必須となります。特に圧迫下の運動は効果的ですので、脚の筋力低下があれば積極的なリハビリも考慮すると良いでしょう。そうすることで、むくみの液が脂肪組織から結合組織に移行しリンパ管に入りやすくなるとされています。

肥満や脚が太い事を気にし過ぎるために、神経性食思不振症Anorexia Nervosa(摂食障害)を来したり、逆に過食症になったり、という精神的な問題を抱えやすい点も特徴です。また、肥満に伴う合併症として、糖尿病、高尿酸血症、高血圧などを来すこともあります。むくみが気になって利尿剤乱用することで偽性Bartter症候群(注:Batter症候群とは低カリウム血症や代謝性アルカローシスなどを特徴とします)になってしまう事もあります。また、脂肪切除術や脂肪吸引術は、当該部位のリンパ管を損傷して本当のリンパ浮腫の原因となってしまう事もあります。
 

参考文献:Földis Textbook of Lymphology 2nded. 2006,P418427

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