マッサージ

3)リンパドレナージ(マッサージ効果)

 別に詳細を記載しますが、2010年にリンパ浮腫治療における用語の統一が行われ、「マッサージ」はいわゆる肩や腰の凝りをとるための「マッサージ」であり、リンパ浮腫における「マッサージ」は優しく皮膚をさするように行うもので、本質的には異なるものなので「リンパドレナージ」として区別しようということになりました。ドレナージとは「排液」という意味で、むくみの液(リンパの液)を皮下から排液すると言う意味です。
 そのため、本書でも基本的に「リンパドレナージ」を用いますが、リンパ流を活発化する意味でのマッサージ効果として「マッサージ」という使い方は致しますので、ご了承下さい。

A.用手的リンパドレナージ manual lymph drainage (MLD)

 動かすのは自分自身で動かすだけでなく、いわゆるマッサージ(リンパドレナージ)も効果があります。リンパドレナージは足または手の先端から中心部(心臓)に向けて行います。(前項の動かすことは生活の中でできるマッサージとも言えます。)

 特に二次性リンパ浮腫では鼡径部または腋の下のリンパ節を切除してあり、この部分のリンパ液の流れが悪いことが根本的な原因となっています。ですから、鼡径部または腋周辺部分のリンパ液の流れを良くしてあげると当然全体のリンパ液の流れは良くなります。逆に、その部分の流れが悪いままでリンパ節までのリンパ管の流ればかり活発にしますと、リンパ液は鼡径部または腋周辺のリンパ節の手前で溜まってしまい、かえって流れが悪くなってしまうことがあります。したがって出来るだけ鼡径部または腋周辺部分を中心部(心臓)へ向けて行い、最後に足や手のドレナージを行います。さらにリンパドレナージの基本から考えると、リンパ管が最終的に静脈に合流する左鎖骨上窩から始めるとされています。

 二次性リンパ浮腫では、脚なら下腹部、臀部、腕なら胸壁、肩、腋周辺にもむくみが広がっていることがあり、その部分のむくみの排除も必要となります。特に手術した部分は硬くなり易いので入念に行います。   次いで大腿→下腿→足、または上腕→前腕→手の順でそれぞれの部分を中枢部に向けて行います。また、硬い部分は軟らかく揉みほぐすような手技も加えます。 リンパ浮腫におけるリンパドレナージは一般的なマッサージとは異なり、軽く擦るように行います。皮膚表面をずらすような感覚で、ゆっくり優しく行います。 特に入浴後など暖まり、血管が拡張している時がより効果的です。

腕と脚のリンパドレナージ概念図
注:左図はリンパの流れの概念図です。実際にはリンパ管は右図のように分布しています。腕や脚のむくみの液は徐々に集まって一つの太い流れ(図中グレーの太い線)になって腋や鼡径のリンパ節に向かいます。腋や鼡径のリンパ節から心臓に向けての流れは体の奥にあって、深部リンパ系と言います。

 右腕と胸部、左脚と腹部のドットで示された範囲は、各々、右腋窩、左鼡径周辺のリンパ節が切除された場合むくむ可能性がある範囲を示しています。胸腹部及び正中の境界は分水嶺と呼ばれています。

B.リンパドレナージの考え方

 これは皮膚表面の浮腫液を順次深部のリンパ系に送りこむ方法です。深部リンパ系への入り口は腋窩および鼡径リンパ節です。リンパは手足の先端から腋や鼡径部のリンパ節を経て深部リンパ系へと流れ込み、最終的に首の付け根付近で鎖骨下静脈に合流します。
 たとえば、左脚のリンパ浮腫の場合を考えてみると、左脚の浮腫液は通常は左鼡径リンパ節から深部のリンパ管へと流れこみますが、鼡径や後腹膜リンパ節切除後は鼡径から深部に入ることが出来ません。また、この左鼡径リンパ節は左脚だけでなく下腹部の液すべてを受けていますので、むくみは脚だけでなく下腹部にも及ぶことになります。

 このむくみを取るには、同側の左腋窩リンパ節などに浮腫液を流し深部リンパ系へ誘導します。車の渋滞と同じで、リンパドレナージではまず前処置としてこの静脈への合流部位と深部リンパ系の流れを良くし、その後、浮腫のある患肢や下腹部を行います。
 従って手順(上の左図参照)として、最初に最終目的地である首の付け根の静脈への合流地点の流れを良くします(①)。次に深部リンパ管の流れを良くするため深呼吸をし(②)、その次に深部リンパ管への入り口である左腋窩リンパ節を刺激します(③)。このようにして深部リンパ系の流れを良くした上でむくみの液を左腋窩リンパ節に流し込みます。優しく撫でるようにゆっくり皮膚をずらして、むくみの液をリンパ節へと導いていきます。この場合も、まず先にリンパ節に近い胸部や腹部のむくみを左腋窩リンパ節に流し込んでから(④⑤)、次いで左腹部や鼡径部(⑥)、大腿部、下腿部(⑦)、最後に足(⑧)を行います。なお、腕については右腕の場合のの手順を⑤⑥⑦⑧として示してあります。

用手的リンパドレナージ

 参考までにセルフリンパドレナージの方法の一例を掲載します。ドレナージ方法は、流れの悪くなっているリンパ節を避けて、正常な働きのあるリンパ節へ誘導します。上肢の場合、浮腫のない健側の腋の下と、患側の脚の付け根(鼡径部)にリンパ液を誘導します。(症状により、誘導部位が脚の付け根だけの場合もあります。)下肢の場合、浮腫のある同側の腋の下へ誘導していきます。

1) 最初に全身のリンパ液の流れを良くするために、首の付け根と腹部のマッサージをします。
2) 患肢のリンパ節の代わりになる正常なリンパ節(例:左下肢リンパ浮腫なら左腋窩、右上肢リンパ浮腫なら左腋窩と右鼡径リンパ節)をドレナージして、患肢からリンパ液を流れ易くします。
3) 代わりとなる正常なリンパ節から、患肢までの道をつくり、流れの悪くなっているリンパ節に流さないように迂回して、患肢を上から少しずつ押し上げながら、指先までドレナージしていきます。
3) 指先までしてきたら、逆に指先から上へ少しずつ押し上げながら、順に戻って、流れの悪くなっているリンパ節を迂回して、正常なリンパ節まで誘導しながら戻ります。

下肢のセルフリンパドレナージ

①肩の後回し10回
②鎖骨の上のくぼみに手を当て回す10回
③腹部のドレナージ
  1.全体を時計回りに優しくさする2~3回
  2.左・右の脇腹に手を当て、おへそに向かって引く各10回
  3.腹式呼吸5回
(浮腫のある下肢側)
④腋の下に手を当て回す20回
⑤おしりの横側から体側を通り、腋の下まで、軽くさする10回
⑥下腹部のドレナージ(腋の下に向かって軽くさする)
⑦おしりのドレナージ(腋の下に向かって軽くさする)
⑧脚のドレナージ(軽くさする)各5~10回
  1.太ももの外側を膝からおしりの横側まで、上に向かって
  2.太ももの前面を内側から外側に向かって
  3.太ももの後面を後側から外側に向かって
  4.膝(前・内側・外側)を上に向かって
  5.膝裏のくぽみを上に向かって10回
  6.すね(前面)を足首から膝まで、上に向かって
  7.ふくらはぎ(後面)を踵から膝裏まで、上に向かって
  8.内・外くるぶしの周囲を上に向かって
  9.足首を動かす(まわす)
  10.足の甲を上に向かって、次に足指を上に向かって
⑨足指までのドレナージしてきた順を逆に④まで、戻りながらマッサージする
  *皮膚を大きく動かすように
  *ゆっくり、軽く、さする

上肢のセルフリンパドレナージ

①~③は下肢に同じ。
④浮腫側の脚のつけ根(リンパ節)に手を当て回す20回
⑤浮腫側の腋の下から体側を通り、脚のつけ根まで軽くさする10回
⑥健側の腋の下に手を当て回す20回
⑦浮腫側の肩から前胸部を通り、健側の腋の下まで軽くさする10回
⑧浮腫のある上肢のドレナージ(軽くさする)各5~10回
  1.肩の前・後面を上に向かって
  2.上腕の外側を肘から肩まで上に向かって
  3.上腕の前面を内側から、外側の上方に向かって
  4.上腕の後面を内側から、外側の上方に向かって
  5.肘の内面(くぽみ)を上に向かって10回、次に肘を上に向かって
  6.前腕(前・後面)を手首から肘まで、上に向かって
  7.手(手背・手掌)、指を上に向かって
⑨手指までドレナージしてきた順を逆に④まで、戻りながらドレナージをする

C.間欠的空気圧迫装置

 マッサージの機械としてマッサージ器(メドマー®など)という製品が市販されています。
 これは図12のように①→⑤の順に血圧計のマンシェット(血圧測定のとき腕に巻くもの)と同じように圧をかけていくもので、リンパ液を徐々に中枢部(心臓)へと送って行きます。患肢全体に一気に圧をかけ、一気に抜くモードもあります。

 しかし、これらの機械を使う場合にも、リンパ液が鼡径部または腋周辺のリンパ節の手前で止ってしまうという先程の欠点はあるわけで、鼡径部または腋の下周辺のむくみをリンパドレナージで先に取っておくことを忘れてはいけません。はじめは弱く徐々に圧を上げていき、痛くない程度、40mmHg以下が良いとされています。なお、炎症(脚または腕が赤く熱を持っている)がある場合は使用してはいけません。
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